2021年8月24日

【短い梅酒のおはなし】中途半端な梅酒

【短い梅酒のおはなし】中途半端な梅酒

3か月前に漬け込んだ梅酒を開けた。
お玉で一杯分グラスにすくって、口をつける。
漬け込む期間がまだ足らなかったからか、まずいという訳ではないけれど、特別美味しいという訳でもなく、「まあ、こんなものか」という味だ。
同棲していた恋人に別れを告げられた時も、同じような気持ちだった。
梅酒とは違い、恋人とは 3 年間となかなかの期間にわたって交際を続けていた。
結婚の話も時折していたので、もっとショックを受けるかと思っていたけれど、身を切るような悲しみが訪れることもなく、「まあ、こんなものか」と、淡々とした気持ちだったことを覚えている。
別れ話のあと、お互いの荷物を少しずつまとめて、恋人だった人が荷物と共に昨日出ていった。
二人で漬け込んだ梅酒だけ、「どうしようか?」と迷ったけれど、結局私が引き取った。
まだ付き合っていたころ、スーパーで夜ご飯の食材を二人で探していると、「梅酒づくりの季節!」や「お買得!」と書かれたポップといっしょに青梅が並んでいた。
どちらからともなく、「梅酒つくってみーひん?」と言い出して、スマホで作り方を調べながら、夜ご飯の食材といっしょに梅酒の材料を買った。
よく二人で歩いた夜道で、氷砂糖の量の多さに「こんなに入れて大丈夫かな?」と笑った恋人の顔を思い出し、少し胸が痛んだ。
大きい悲しみはないけれど、割り切れないものがまだ残っている。
中途半端に漬け込まれた梅酒の味も、それと同じだ。
梅、酒、砂糖がまだまとまっていなくて、角が立っている。
捨てようとして開けた梅酒の瓶に、ぽたりと雫が落ちた。
「こんなものか」なんて恰好つけているけれど、ただ急に投げ出された気持ちの落としどころが分からないだけだ。
その証拠に、目じりから未練がこぼれている。
梅酒は、漬け込めば漬け込むほど、まろやかで美味しくなるらしい。
1 年後には、梅酒も恋人だった人との思い出も、楽しめるようになるだろうか。
グラスに残る、中途半端な梅酒を飲み干す。
思い出は分からないけれど、せめてこの梅酒だけでも美味しく飲んでやろうと思い、瓶の蓋を戻した。


この記事を書いた人 : 高橋 聡

イラストレーターとコピーライターをしています。
梅酒のおつまみになるような記事になっていたら、嬉しいです。