「どこにも売られていない梅酒」の話。
とある、小さな酒蔵様が作った梅酒と、その梅酒が楽しまれた特別な日の話を少しさせてください。
その小さな酒蔵様というのは、九州である佐賀の酒蔵「東鶴酒造」さんが
年末お世話になったお歳暮として送ってくれたものでした。
ラベルには、のし紙のようなデザインで。
拝啓 時下益々ご清栄のことお喜び申し上げます。
今年も大変お世話になりました。心ばかりではござますが今年初めて梅酒を仕込みましたので、是非ご賞味いただければ幸いです。
このお酒を作る東鶴酒造の蔵人、3代目の野中 保斉さんは、中々のイケメン。。
東鶴酒造の創業は江戸末期。佐賀県多久市の山々に囲まれた豊かな地で、現在は家族ぐるみで経営。
薄いスライド式の受付の扉を開けると、野中さんのお子さんが遊んで貼ったシールがところどころに。
「ああ、遠くから来てくれてありがとうございます。」と野中さんの優しい声に、一瞬で癒されたのを今でも覚えています。
そんな出会いのイメージも鮮明に残っていたのもあって、
「今年初めての梅酒を仕込んだので」と書いてあるラベルを見たらもう絶対に美味しいに決まっていると…!(イケメン補正は決してかかっていません…!)
そんな想いとは裏腹に、年の瀬で忙しくしていたのもあり、
手元に届いたこの梅酒は勿体無いのもあって開封できずにいました。
(どこにも売られていないお酒を感謝のお礼でいただけるなんて、
あまりにも通なことをされたら、開けるのも少し億劫になってしまいます…!)
気がつけば繁忙期も終わり、月日は1ヶ月が流れた頃。
とあるディナーの予約でバースデープレートを予約していた男女2名様の方に出会いました。
「実は今日、彼が20歳になったから初めてお酒を飲みにきたんです。」
男性の方は、女性を祝うために。女性の方は男性の初めてのお酒のために。
そんな素敵なシーンを見て、
これは、是非あの梅酒を楽しんでもらおう!と。
初めて東鶴酒造さんが作った梅酒を、初めてお酒を飲む方に、素敵なシーンで楽しんでもらう・・・。
私の想像と計画は、一瞬で完成されました。
開封して、味見。できれば食前酒として楽しんでもらえればと思ったので、
炭酸で少し割っても耐えれる味かどうか確認。
透き通った色味は味の濃度は薄めかと心配しつつ、
口に含んだ途端に広がる優しくじんわり広がる味わいに驚く。軽くも余韻の長さと落ち着く味わい。
“炭酸で少し割ったら、大人っぽくなるかもしれない。”
そう思い、スパークリンググラスに作ったのは、
どこにも売られていない、梅酒のスパークリングとしてお出ししました。
驚いた表情を見せた2人は、すぐに嬉しそうにグラスを手に取り、
少し傾けて乾杯の合図。
最後には、「ありがとうございます。」と感謝のお言葉をいただきました。
これで野中さんが作った初めての梅酒が、誰かの思い出に残る特別なお酒なりました。
誰かのために喜んでもらいたいと思う気持ちでつくられたものは、そのまま伝わるものになる。
このどこにも売られていない梅酒を通して、
その作り手の人柄を通して、想いが人に伝わっていく瞬間を見た気がしました。
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この記事を書いた人:tkd
酒屋でお酒に日々ふれるアラサー女子。お酒の魅力や奥深さを日々感じています。目指すネタは「梅酒の概念を変えるもの」。知ってたことも知らなかったことのように感じていただけたらと思います!