四季があり自然豊かな国、日本
私たち日本人は古くから植物に関心を寄せ、行事や習俗に結びつけながら日々の暮らしに取り入れてきました。
お正月の門松にはじまり、3月はひな祭りの桃の花、5月5日のショウブ湯に、七夕の竹。
お月見のお団子の横に添えられるススキもそうですね。
絶対、もちもちのお団子にこっくり梅酒はぴったりだろうなぁ〜(…妄想)
これらはいずれも暦に基づく行事で、そこに用いられる植物は日本独自のものです。
日本人が大切にしてきた植物への愛がひしひしと伝わってきます。
植物好きの日本人ですが、なかでも人気の花といえば、こちらの「桜」。
森山直太朗氏のさくら(独唱)や、ケツメイシ、SAKURAドロップス、桜の時も桜ソングです。
出会いと別れの時期を美しく彩る桜に、特別な感情をもつ方も多いのでは。
ですが、
桜に負けず劣らず、寒い時期から健気に咲く姿が愛らしい「梅の花」にも根強いファンがいます。
今回は梅の花の“色”に関するお話です。
あの、清少納言は「梅推し」だった
新元号の「令和」も、出典は『万葉集』の梅花の歌集であるように、梅は古くから親しまれてきました。
古典の授業でも習う清少納言の随筆文学『枕草子』にも、梅にまつわる作品が多数紹介されています。
例えばこちら。
「木の花は、濃きも薄きも紅梅」
訳:木の花は、色が濃くても薄くても紅梅がいいわ〜
あと、こちら。
「歯もなき女の梅食いて酸がりたる」
訳:歯のない女が梅を食べて酸っぱがっているのって、みっともないわよね~
ちょっと、ちょっと
清少納言さん、何もそこまでいわなくても…と思いましたが、
美意識の高かった清少納言は、不細工の人に厳しかったようです。
そんな清少納言が『枕草子』の中で、早春に女性が身にまとう「おすすめ色」を紹介していました。
現代版流行色、トレンドカラーってやつです。
こちらの“紅梅色”。
“紅梅色”は女性だけでなく、男性にも人気がありました。
“紅梅色”をはじめ、平安時代には梅の色から取った、薄紅梅(うすこうばい)や一重梅(ひとえうめ)、梅重(うめがさね)などの和色がたくさん生まれ、十二単などのかさねの色目にも使用されています。
せっかくなので、梅が名前に入った和色にはどんな種類があるかを調べてみました。
梅から生まれた和色はいろいろ
薄い〜から濃いまで色々ありますが、すべて「梅」入りカラーです。
WEBデザイン等にも流用できるようコード表も付けてみました。
平安時代に愛された“紅梅色”はわかりやすい梅色ですが、中には「むしろ黒やん!!」って言いたくなる色までありました。
「あ〜そのデザイン梅の色にしておいて。」なんて適当なことを言ったらえらいことになります。
色の幅もおもしろいのですが、名前に使われている漢字の組み合わせから、なんとなくこんな色かな〜が想像できるのが和色の馴染み良いところです。
例えば、梅以外の和色もこんな感じ。
結構そのまんまです。
そもそも和色とは、平安時代以降の日本に昔からある伝統色のことで、なんとその数1,100種類以上!!
なかには「ふむふむ。これは●●色ですね。」と全色答えられる人もいるんでしょうね。
上記でまとめた梅カラーチップ“梅鼠(うめねず)”の説明で登場した「百鼠」のお話がおもしろかったのでご紹介します。
江戸っ子のイキな和色の楽しみ方
百鼠(ひゃくねずみ)なんて聞くと、なんとなく嫌〜な絵を想像してしまいますが、正確には「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねずみ)」といって、膨大な量の茶色と、鼠色を表現した言葉です。
江戸時代後期、だんだん裕福になってきた町人や商人(庶民)が、衣装や身なりにお金をかけはじめます。
「あたいのこの着物みておくれよ〜ぅ。べらぼぅにイキだろう〜。」
「いや何いってんだい。お前さんの着物よりこっちの柄がいけてるじゃないか。」
「きぃいい〜〜〜〜。この泥棒猫〜〜!!!」
というように、どんどん贅を競うようになりました。
ここで面白くないのが江戸幕府です。
「庶民にそんなに贅沢をされては困る」と考えた幕府が「奢侈禁止令(しゃしきんしれい)」を出して、庶民の着物の色や柄、値段にまで規制をかけたのです。
この規制によって庶民が着られる着物の色が「茶色」「鼠色」「藍色」の限定3色になりました。
はい!これが限定3色です!!
ベーシックカラーで着やすくて落ち着く色ではありますが、
なんていうか…
全体的に地味。
しかし、おしゃれの楽しさに目覚めた江戸っ子たちは、規制されようがだまっちゃいません。
利休茶(りきゅうちゃ)、煎茶色(せんちゃいろ)、梅鼠(うめねず)、銀鼠(ぎんねず)など、微妙な染め分けをした「茶色」や「鼠色」をどんどん作り出していき個性を競うのでした。
この時代にできた、「茶色」と「鼠色」の膨大な色数の総称を「四十八茶百鼠」と呼んでいたのです。
いつの時代もギリギリを攻めるのがイキなのかもしれませんね。
現代にいきる平安時代の流行カラー
平安時代に江戸にと行ったり来たりしましたが、
お次は、現代。
平安時代の女流作家、ファッションリーダーでもあった清少納言が認めた“紅梅色”が、私達の生活の中にも溶け込んでいることをご存知ですか。
大阪市福島区の野田阪神駅から、生野区の南巽駅までを結ぶ「大阪メトロ千日前線」。
なんと、こちらのラインカラーに“紅梅色”が使われているんです。
なんで千日前が“紅梅色”なのかって…
それはね
ピンク系の店が多いから。
あと、難波・ミナミの繁華街にある鮮やかなネオンの色から来ているそう。
ピンク…
さすが大阪。
清少納言さんはどう思うかはわかりませんが、私はストレートで好きです。
まとめ
古くから四季折々の植物や、鳥や動物といった自然界に存在する色を愛でては名前を付け、暮らしに取り入れてきた日本人。
身近にある梅の花や、梅にまつわる色彩はいつの時代も私たちの生活を彩ってくれます。
飲んでよし、食べてよし、愛でてよしの「梅」をこれからもご贔屓に。
この記事を書いた人:小松
飲食に異常な興味を示すことを買われ、梅酒時間の編集に携わることになったディレクター兼デザイナー。高知出身で梅酒に限らずお酒全般が好き(決して、強くない)。週末に半日かけて料理をすることが楽しみ。